第2回 羽賀さんのゆううつ
(歯周病編)
初めての経験
文:飯尾秀人、絵:KOUJI
静かなる侵略者、歯周病
<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。ある日のこと、朝起きると大二郎さんのほっぺたが、ハチに刺されたように腫れ上がっていました。生まれて初めて歯医者さんに行くことになった大二郎さんは……。
「早く食べないと学校に遅れちゃうわよ!」。明夫君にそう声をかけながら、浮江さんは、自分が着ていく洋服を取り出し、鏡の前に立っていました。出かける準備ができた浮江さんは「お母さんも仕事に行くから、いっしょに出ようね」と、明夫くんに声をかけ、やさしく肩を抱きながら玄関を出ていきました。
羽賀さん一家は5年前に家を新築して、ローンがたくさん残っています。そのため、それまで専業主婦だった浮江(さんも、パート勤めをすることになったのです。最初はいやだった仕事も今は楽しく働いていますが、立ち仕事のためか、このところずっと肩こりに悩まされていました。
「あいたっ!」
職場の更衣室で着替えをしていた浮江さんを、突然の頭痛が襲いました。実は最近、浮江さんは何故か頭痛に悩まされていたのです。最初は風邪かなと思っていたのですが、喉の調子も悪くなく咳もでないので、どうもそうではないようです。
その日はなんとか無事仕事を終えて、帰りがけに近くのスーパーで買い物をしていると
「浮江じゃない、久しぶりね」
と、誰かが声を掛けてきました。振り向くと、そこには高校時代に親友だった良子さんが立っていました。
「良子なの。何年ぶりかしら逢いたかったわ。ねえ今どうしてるの?」
浮江さんが驚きとなつかしさの入り混じった顔でそう尋ねると
「本当なつかしいわね。先月主人が転勤になって、こちらにやって来たのよ。私も今仕事が終わって、晩ご飯の用意をしようとこのスーパーに立ち寄ったら、あなたに偶然に出会うなんてね」
と良子さんも、うれしそうに答えました。
それからふたりはスーパーの隅にある椅子に腰掛けて、これまでの人生について、話の花を咲かせていたのですが、その話題が現在に近づいた頃、浮江さんはしみじみとした声で
「ふーん。お互いに苦労は絶えないし、あなたも私といっしょで働く主婦なのねー。それで今は、どんな仕事をしているの?」
と聞きました。すると良子さんは、浮江さんの顔を真正面から覗き込みながら心配そうに言いました。
「日真名歯科医院(ひまなしかいいん)知ってる?私、歯科衛生士の資格を持っているから、そこでパートをしているのよ。それより浮江なんか顔つきおかしくない」
「分かる?最近よく頭痛がするのよ。それに顎もなんだかガクガクしちゃって、何でだろうって思うのよ。やっぱり年なのかな?」
このふたりの会話が、浮江さんの最近の悩みを解決するきっかけになることを、浮江さんはまだ知りませんでした。
=愛媛県歯科医師会監修、毎週木曜掲載
<はぴか情報>
顎は両耳の前あたりにある顎関節によって支えられ、この関節を基点に口を開閉して食べ物をすりつぶし、かみ砕く役割を担っています。この顎が、歯並び、生活習慣やくせ、かみ合わせの不具合によって、後方にずれてしまうと顎関節症となる危険度が高まり、頭痛、肩や首に痛みが出るなどの障害を伴うおそれがあります。そのずれはわずか0.5~1ミリ程度です。