羽賀さん一家の

元気ではぴか

第62回 明日への願い
(お口の育成編)

歯科医から口腔医へ

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
しっかり噛んで明るく生きる

<これまでのあらすじ>
羽賀さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して初孫の美代ちゃんを生んだばかりの長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。羽賀さん一家は、この1年をかけて、歯の健康は全身の健康につながることを学んだようです。

口の中も正しいバランスが大事だということを、羽賀さん一家は知りました。そして明夫君は、浮江さんの顔を横目で見ながら、ポカンと開いていた唇を閉じたのです。その時、洋さんは明夫君が食事を終えているのに、口をモグモグさせているのに気がつきました。

「あれっ、明夫君。夕食を食べた後なのに、もうガムを咬んでいるのかい?」

「お兄さん、これはキシリトールといって、ムシ歯を作らないために咬んでいるんだよ」

ミュータンス菌は、糖分を取り入れることにより、酸を生成して歯を溶かします。しかしキシリトールの糖分からは酸を作ることができないのです。またガムを咬むと、唾液の分泌量が増えて歯垢のpHが上昇するので、歯の石灰化を促す効果もあるのです。

「でも、ある日の朝目覚めたら自分の顔が腫れていて、その時から日真名(ひまな)先生とは切っても切れない関係になってしまったなあ」

大二郎さんは、1年半も前のつらい体験を思い出したようです。

「そうね。でも、あなたがそうなったお陰で、家族全員が歯の健康の大切さを知ることができたんだから、不幸中の幸いだったんじゃない」

「そうよ、お父さん。私も母親教室に通って、不安だった育児にも少しだけ自信ができたし、これから美代がムシ歯にならないように、努力する意欲も湧いてきたもの」

乳歯は長い人生というマラソンの中で、その第1走者に例えられるでしょう。もし怪我をしていたら、実力を十分に発揮することはできません。また、入れ歯など人工物の歯ではなく、永久歯という第2走者がそのまま最終走者となるためには、自分自身のケアとプロのケアという二つのメンテナンスを欠かすことができないのです。

「それに、おじいちゃんだって、あんなに元気になったじゃない」

加奈さんは、内蔵さんの介護を手伝っているうちに、これまで当たり前のように思っていた『食べる』という行為が、いかに生きるために重要なことなのかを学びました。事実、内蔵さんの顔はそれまでと違って、生き生きとしていたのですから。

「これからは現状維持ではなく、よりステップアップすることが大事なのよね」

そう浮江さんが笑顔で言うと、家族の誰もがうなずきました。

「ハックション! 風邪かな? それとも誰か変なうわさでもしているのかな?」

院長室のパソコンの前に座っていた日真名先生は、あたりを見回しました。その時、彼はある事を考えていたのです。それは、これからの歯科医は口腔医(こうくうい)として、口の中を通して全身の健康に役立たなければならないということでした。何故なら、彼が勉強すればするほど、ムシ歯や歯周病は単なる口の病気ではなく、全身の健康と深く関係していることに気づいたからです。また、日本歯科医師会でも“80歳になっても20本以上自分の歯を保とう”という8020運動を提唱しているのを、読者のみなさんは御存知でしょう。実はその中には、一生涯にわたって誰もが、明るく健康な生活ができるようにという願いも込められているのです。(おわり)


<はぴか情報>
仕事やめ 毛が抜け歯が抜け 気が抜けた(一般、梶原芳之さん)

愛媛県歯科医師会(089・933・4371)の第1回「はぴかちゃん歯いく大賞」(小学生以下、中高生、一般)ユニーク賞受賞作をご紹介します。