羽賀さん一家の

元気ではぴか

第41回 日真名先生の独り言
(医療事情編)

海外渡航前に歯の健診を

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
歯列が災害時の身元特定につながる

<これまでのあらすじ>
羽賀さん一家(いっか)は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。大二郎さんの予約キャンセルで一息ついていた歯科医の日真名先生(ひまなせんせい)。突然の地震で歯科医の役割を思い出した日真名先生は、二人の衛生士にその話をしました。

日真名先生から災害時の歯科医の役割を教えてもらった二人の衛生士は、かかりつけ歯科医の重要性を再認識しました。

「ところで、今日も『保険に入っていないので、自費でお願いします』という人がいたけど、最近そんな人が多くなっているのかな」

「昨日来られた松下さんも『今年で勤めている工場が閉鎖するから、悪いところは今のうちに治しておきたい』とおっしゃっていました」

「そういえば隣町の大企業の下請け工場も閉鎖して、海外に製造拠点を移すようだね」

一部の見識者は平成の大不況は峠を越したと言いますが、その陰で企業がより安い労働力を求めて海外に進出しているのも事実です。そのおかげで商品の価格が安くなり、一時的に消費が増えたとしても、国内の雇用が進まず労働収入が得られなければ、結果として国内産業はどんどん冷え込んでいくのではないでしょうか。また、このような悪循環は健康保険にも影響を与えています。明日の生活の心配をしなければならない人たちは、新たな健康保険に加入しない場合も多いのです。そして、加入者が減れば健康保険は赤字となり、潜在的な重症患者も増加することになります。

「保険のない人は少しくらい悪いところがあっても我慢して、いよいよ耐えられなくなってから来院するから、時間も費用もばかにならなくなるんだけれどね」

「保険といえば、私の友人のご主人が来月から海外勤務なのですが、もし歯が痛くなったら、日本のように保険が使えないから大変ですよね」

良子さんが思い出したように言いました。

「国によって医療制度は異なっていて、日本のような国民皆保険制度は珍しいからね。長期出張なら行く前に、その国の制度がどうなっているかを調べておく必要があるよ」

日本企業の国際化が進み、海外で働く日本人は急増しています。それに伴い、慣れない生活環境や言葉の問題などのため、多くの人が歯に悩みを抱えたまま治療を受けられないのです。また、現地の歯科医師とのコミュニケーション不足から、自分の望んだ治療と違っているといったトラブルも多くなっているようです。

「海外では歯の治療をすると、どのくらい掛かるのですか?」

理恵さんが日真名先生に尋ねました

「国によって違いがあるけど、日本の保険で行われている治療を他の国で受けたら、5~10倍の金額が必要なんだ。ちなみに、アメリカでは歯1本の治療費はおよそ1000ドルが目安とも言われていて、費用が掛かるから、逆にメンテナンスが大事だと考えるようになったのかもしれないね」

「それじゃあ、ご主人が海外に行く前に友達に今の話をして、『かかりつけの歯科医院』で健診を受けるようアドバイスをしておきます。彼女はバーゲンの達人だから『歯は日本にいる間に治しておいてちょうだい』と、きっと言うと思います」

笑いながら良子さんは、そう言いました。

日本の医療制度では、国内で誰もがいつ、どこででも、安全で十分な医療を受けることができます。しかし、外国でも同じだと錯覚すれば途方に暮れるかもしれません。歯科医療も日常の保健管理を十分に行った上で、国内で十分に手当てをしてから海外に出掛けなければなりません。また、渡航の際は、民間の歯科健康保険に入っておくことが、これからの常識となるのかもしれません。


<はぴか情報>
アメリカでは娘が生まれると、二つの貯金を始めると言います。一つは結婚資金、もう一つは、将来の歯の治療のための「歯貯金」です。アメリカの歯科医療費は日本のように保険で賄われず、「歯の治療にはお金がかかる」という概念が一般的です。だからこそ、日常的なデンタルケアへの意識も高く、多くの家庭でかかりつけの歯医者がいます。(資料提供 8020推進財団)