羽賀さん一家の

元気ではぴか

第39回 日真名先生の独り言
(医療事情編)

のど元過ぎれば熱さを忘れる

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
放置は悪化の原因に

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家(いっか)は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。今日は大二郎さんが日真名先生(ひまなせんせい)の歯科医院に予約を入れています。しかし――。

ある患者さんを見終わった日真名先生が次の準備を始めていた時、衛生士の良子さんが声をかけました。

「先生、今日の羽賀さんの予約はキャンセルです。『新しい仕事が入って忙しいので、ひと段落したら電話します』と、おっしゃっていました」

羽賀大二郎さんは歯周病で顔が腫れて来院しましたが、現在は3カ月に1回メンテナンスに通院しています。最初のころは『これは大変だ』と治療にも熱心に通っていたのですが、ここ数カ月は特に不具合もなく、少しおざなりになってきているのかもしれません。

「先月(もキャンセルだったし、今月は必ず来院するって約束したのに……」

日真名先生は肩を落として、ブツブツと独り言を言っていますが、それには理由があるのです。実は歯周病を治療している患者さんは症状が落ち着くと、そのまま来院しなくなる人も多いのです。入れ歯やかぶせ物が入るのと違って、ハミガキ指導や歯の掃除をするだけでは治っているという実感が持てないのでしょうか、そのうち治療を中断してしまうのです。その結果、歯周病は完治せず、さらに悪くなって抜歯になるケースも珍しくないのです。

また、患者さんによっては、痛くなった時に薬だけを欲しがる人もいます。スポーツでも単調な動作を繰り返し練習するから上達していくように、健康を維持することも日々のメンテナンスが重要なのは言うまでもありません。健康維持にお金を払うことは、日本の土壌に馴染みにくいのでしょうか。

しかし、最近は高くてもおいしい水を買う時代ですから、メンテナンスに費用をかけるのが当たり前になることを日真名先生は願っています。そしてそうなれば、かかる費用は病気が悪化した時より少なくて済むのですから。

「そういえば最近、『次回の予約は電話で連絡します』という患者さんが多くなっていますね。みんなお忙しいんでしょうか。」

受付ですき間だらけの予約表をさびしそうに見ていた日真名先生を気遣って、良子さんはそう言いました。

「不況の時代だから、仕事の途中で出てくることもできないだろうね。保健所に健診に行った時も、仕事が終わるのが午後8時を過ぎるから、痛くても歯医者にいけないという人がたくさんいたよ。つまり、歯に悩みを抱えて生活している人は多いけど、いろいろな制約があり優先順位を下げざるを得ないのだろう」

「つまり後回しということですね」

「そうかもしれないね。でも、体を犠牲にして働くのではなく、欧米のように良い仕事をするためには健康が大事だという考え方が、日本の社会全体に浸透していけばいいんだけれどね」

「昨日診察された中学生の愛ちゃんも、『塾とクラブ活動が忙しくて夕方の予約時間に間に合わないから、また電話します』と次回の予約をする際に言っていたから、『今は白い歯ブームだから忘れずに歯を治さないといけないわよ』と念を押しておきました。早く連絡してくれるといいんですけど」

同じ年代に娘さんがいる良子さんは、愛ちゃんのムシ歯が放置され、ひどくならないか心配なのでしょう。


<はぴか情報>
例えば、神経を取る治療の途中で来院をやめて中断すると、神経が入っていた道を通じて細菌などが入り込み、長く放っておくと歯を抜かざるを得なくなることもあります。初期のムシ歯や歯周病はほとんど痛みがありません。もし、初期段階で発見できれば、簡単な治療で費用も少なくて済みます。(資料提供・愛媛県歯科医師会)