羽賀さん一家の

元気ではぴか

第31回 内臓の願い
(口腔ケア編)

ネズミ再び

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
口腔ケアで充実した生活を

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。日真名先生(ひまなせんせい)の訪問診療のおかげで、内蔵さんのムシ歯もすっかり治ったようです。

内蔵さんの治療も終わり後片づけを済ませた日真名先生は、出してもらったお茶を飲みながら浮江さん達と話をしていました。

「あー、仕事の後の一杯はおいしいですね。ところで、内蔵さんも家に閉じこもっていてはいけないですよ。それにいつも自室で食事をされているのですか?」

保志子さんは、内蔵さんが病院から帰った当時はまだよくなろうという気力もあり、みんなと一緒に食事をしようと努力していましたが、食卓でポロポロ食べ物をこぼすのが嫌になり、次第に自室での食事になったということを伝えました。

「先生、どうにかならないでしょうか」

「これからは無理せず、少しずつ食べる訓練をなさるといいですよ。それと、内蔵さんのお口の中はだ液の出が悪くなり、乾燥して食べづらくなっているようです。これをドライマウスといって、最近は高齢者だけでなく、薬物の副作用やストレスなどで若い人にも発症しているので注目されているのですよ」

「ドライマウス。マウスは口のことですよね」

マウスという言葉に、ネズミがウインクしている姿が一瞬脳裏に浮かんだ浮江さんでした。というのも、激しいスポーツをする時、外傷から口の中を守るマウスガードを、以前に「ネズミを守れ」と勘違いした苦い経験があったからです。先生の話によると、だ液は口やのどに潤いを与えるほか、免疫作用や抗菌効果もあるので、口の中がいつも渇いた状態にあるドライマウスは、進行すると歯周病や口内炎が引き起こされ、さらには全身の抵抗力が低下して感染症にかかりやすくなるとのことです。

「それから、また悪くならないよう少しずつ口腔ケアをしないといけないですね。次はうちの衛生士にも来てもらい、指導してもらいましょう」

「口腔ケア? それはどういったものですか?」

初めて聞く言葉なので、浮江さんは意味が分からず質問しました。

「簡単に言えば、お口のリハビリです。口腔ケアとは、治療するだけでなく、介護者や本人が口腔清掃や機能回復の訓練を行うことによって、口腔の疾病予防、健康の保持増進、さらにはQOL(Quality Of Life)の向上を目指したものなのです」

「口腔ケアで生活を充実させるのですね。そりゃあ誰もが人間らしい生活がしたいですからね」

浮江さんもなんとなく口腔ケアのことが理解できたようです。先生の話によると、寝たきりのお年寄りでも口腔ケアが大きな成果をあげることがあるそうです。例えば、入れ歯を直しておいしく食事をとれるようになると、体力がつくだけでなく生きることに意欲的になり、その後のリハビリにも積極的に取り組むそうです。

いずれにしても近年急速に進む高齢化社会で、高齢者の健康管理と適切な医療の確保が、今日の社会の大きな課題となっているのは事実です。そのため、在宅寝たきり老人への歯科医療にも目が向けられるようになってきたのは意義のあることでしょう。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
高齢者の口腔乾燥症(ドライマウス)が増えています。この病気はむし歯や歯周病を進行させるだけでなく、入れ歯の不調や口臭、会話がしにくくなるなど、さまざまな症状を引き起こします。かかりつけの歯医者さんで健診してもらいましょう。(資料提供・愛媛県歯科医師会)