羽賀さん一家の

元気ではぴか

第21回 帰ってきた長女
(予防編)

赤ちゃんのせいじゃないよ

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
歯周病の妊婦は早産の危険も

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。加奈さんは『丈夫な赤ちゃんを育てる母親教室』に参加するため、ある歯科医院を訪れました。

日真名(ひまな)歯科医院に行くと、5~6人の大きなおなかをした妊婦さんが既に座っていて、加奈さんがどの席に座ろうか迷っている間に、隣の部屋から先生がやってきました。

「それでは『丈夫な赤ちゃんを育てる母親教室』を開催したいと思います。みなさん歯の健診を受けたらムシ歯や歯肉炎になっていて、気を落とされている方もおられると思います。でも今日の話を聞いて改善していけば、きっと健康な赤ちゃんにご対面できますよ」

講義が始まってしばらくたったころ、先生はみんなに何か質問はないか聞いてきました。すると加奈さんの隣に座っていた妊婦さんが、おもむろに左手を上げて質問しました。

「先生、この前、衛生士さんが妊娠中は歯肉炎やムシ歯になりやすいって教えてくれたのですが、それはどうしてなのですか?」

「妊娠すると女性ホルモンのバランスが変わり、炎症を起こしやすくなるのです。そのため歯肉炎になってしまうのでしょう。また、つわりで歯みがき回数が減ったり雑になったり、食事や間食の回数が増えることなど、生活習慣が変化する事も原因となっていることが多いようですね」

「昔からよく『子供をひとり産むと、歯を1本失う』と言われますが、赤ちゃんにカルシウムを奪われてムシ歯になるというのは本当なのでしょうか?」

今度は加奈さんの前に座って、必死にメモを取っていた眼鏡の人が先生に尋ねました。

「いいえ、一度歯になってしまったカルシウムはもう血液中に戻ることなく、一生そのままです。したがって、お母さんの歯のカルシウムが赤ちゃんのために使われるということはありません。間違っても赤ちゃんのせいだなんて思わないでください。大事なのは自分自身の健康をどう保っていくかであり、もしそうでないなら、赤ちゃんの健康にも影響してしまうのです」

「えっ、それはどういうことなのですか?」

質問する気のなかった加奈さんでしたが、口から言葉が飛び出してしまいました。

「最近わかってきたことなのですが、中程度から重度の歯周病になっているお母さんは、喫煙や飲酒よりも出産にとって悪影響があり、早産による未熟児を出産する危険性が健康なお母さんの7倍以上にもなるとの報告があるのです」

未熟児という言葉にえもいわれぬ不安を感じた加奈さんは、おもいきって質問してみました。

「健康な赤ちゃんを出産するには、どういったことに気をつければいいのですか?」

それまであまり興味のなさそうな顔をしていた加奈さんが、はじめて質問してきたので、先生はうれしそうな顔をしながら答えました。

「まず妊娠中のバランスの取れた食生活が大切でしょう。最近の若い女性は誤ったダイエットを行っていることが多いようですが、このような女性が妊娠すると胎児にも重大な悪影響を与えることになるのです。歯の成長と発育は妊娠の初期にスタートし、いったん出来上がってしまうと、あとからいくら栄養を補っても取り入れてくれません。このようにお母さんの妊娠中の食生活が、こどもの歯の運命までも左右するのです」

先生が説明していることに耳を傾けていたので、その時誰も気がつきませんでした。加奈さんの目がだんだんと獲物を捕らえるライオンのようになっていったのを。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
妊娠時につらいものの一つが「つわり」。つわりがある時には歯磨きもつらく、特に奥歯は磨きにくくなります。香りの強い歯磨き剤を避けたり、ヘッドの小さい歯ブラシを使って顔を前傾させ、前にかき出すように磨くと吐き気を軽減できます。(資料提供 愛媛県歯科医師会)