歯周病検査で、歯周ポケットの深さを測るために刺す「探針」。「探針に抗う歯根」に取り合わされたのは、晴天に鳴っている「日雷」です。針による痛みを感じならがも、しぶとく健やかな歯根は、日雷のように強い力をもってそこに存在しています。

ついつい鉛筆をかじってしまい、ギザギザの歯跡がついているのでしょう。はっと気づくたびに、おとなの歯にごめんと謝ります。取り合わされた「夏の雲」があっけらかんと気持ちがいいです。

「青梅雨」とは、梅雨の雨によって青葉が光るようにみえる様子に重点を置いた季語。瑞々しく美しい「青梅雨」の朝に出した新しい歯ブラシならば、きっと青い歯ブラシだったに違いありません。

親から離れて一人で出席する入学式。ドキドキしながらも、「おとなの歯」が「六つ」も生えていることを頼もしく感じているのでしょう。「出席」との言い切りにも入学の喜びがあふれるようです。

簡単に抜けなかった癒合歯の思い出の句とのこと。乳歯でありながら、根っこが深く立派な自分の歯と、古代の巨大鮫「メガロドン」の大きな歯を実際に並べてみた「夏の夜」が一句となりました。

野球の試合前日の一コマとのこと。歯ぶらしを口に咥えているものの、熱心に磨いているのはグローブなのがリアルで楽しい句です。野球の練習を頑張る「夏」だったのだろうと想像が膨らみます。

乳歯が抜けて、ニッと笑う弟の笑顔から発想した句。「すきっぱトンネル」と名づけることで愉快な句になりました。「ぬけていく」が、「ソーダ水」のはじけるさまをまさに体感しているようです。

高村光太郎の「智恵子抄」の一節「あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ」からの発想の句。レモンの黄色と、真っ白い歯が鮮やかに目に浮かぶだけでなく、爽やかな香りまで漂ってきそうです。

「滑らかなプラスチックの歯」に取り合わされているのは、季語「酷暑」。真っ白で美しい歯ではあるけれども、作り物でしかない歯への思いが、暑さ極まる「酷暑」に委ねられているようです。

緊張しつつ順番を待っている歯医者の待合室。背後の窓から夕日が射してきました。優しい夕焼けの色や温かみは、順番待ちの緊張をほぐすかのように、背中をじんわりと温めてくれています。

卯の花が咲く頃に続く長雨が「卯の花腐し」です。卯の花と歯の白の対比だけでなく、奥歯を抜く際の麻酔がいつまでもじくじくと残っている感じが、じくじくと降る長雨の気分と響き合います。

「抜歯待つ」で歯科医院の待合室の水槽だとわかります。奥から歯を削る金属音が聞こえてきます。熱帯魚の「鰭」の優雅な動きが、抜歯を待つ緊張感をほぐし、落ち着かせてくれるかのようです。

季語「小鳥来る」と「絵本」との相性が良い句です。絵本をたくさん備えた身近な歯科を想像しつつも、絵本の中の小鳥の国に可愛い歯科があるのかも……と、ファンタジー気分も味わいました。