羽賀さん一家の

元気ではぴか

第37回 保志子さんの決断
(義歯編)

新しい入れ歯は微調整が必要

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
入れ歯の手入れは丁寧に

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。歯科医院を訪れた保志子さん。入れ歯が摩耗していたため、新しいものを作ることになりました。

「それでは新しい入れ歯の製作に取りかかりましょう。入れ歯の型とりは2回行いますので、今日は1回目を行いましょう」

「2回? 入れ歯を二つ作ってくれるんですか?」

「いいえ、まず診断用に1回と、次回それを使って最終的な型とりをするのです」

型とりは粘膜という軟らかい組織を相手にするので、1回では実際の姿を現してくれないことがあるそうです。そのため2回とれば、より精度の高いお口の型がとれるというわけです。2回目の後、保志子さんは上下の噛み合わせの位置決めと実際の人工の歯を赤いワックスに並べた最終チェックのために歯科医院に通いました。

「噛み合わせは問題ないようですが、見た目はどうでしょう。ご自分で鏡を見て、気に入らない所があったら、おっしゃってください」

「私、年なんですから格好なんてどうでもいいんですよ。先生にお任せします」

「それはいけません。服だって自分で試着して気に入ったものを選ぶでしょ。こういう場所では、なかなか自分の気持ちを出しにくいものですが、その結果、自分の思いと違う治療が行われたり、不満な入れ歯が生まれたりするのです。私の嫌いな言葉は『先生にお任せします』の一言なんですよ」

先生の話によると、そういう患者さんは、出来上がってからも何らかの不満を抱えていて、お互いの不信感が高まってしまうことも少なくないそうです。どうやら『黙って座ればピタリと当たる』というわけにはいかないようです。

その一週間後、保志子さんは、いよいよ新しい入れ歯のセットの日を迎えました。

「新しい入れ歯、しっかりしていて何でも噛めそうです。以前に比べて少し大きいようですが、きっと慣れますよね」

これでトメさんに待ち望んでいたリベンジができると、期待に胸を膨らませながら保志子さんは帰っていきました。

しかし、新しい入れ歯を入れて二日後、保志子さんは不機嫌そうな顔をして、診察台に座っていたのです。

「先生、新しい入れ歯、最初はガクガクしないしカッチリして良いと思ったんですが、食事をするとだんだん痛くなって、それに以前の入れ歯に比べて大きいような気がします。なんだか口いっぱいに入れ歯を押し込んでいるみたいで…」

日真名先生は保志子さんの口の中をのぞき込むと、入れ歯の何カ所かを少しずつ削っていきました。

「じゃあ、これを入れてみてください」

あまり大きさに変わりがないようでしたが、入れ歯を入れてみると痛かった所は消え、大きさも気にならなくなりました。

「義歯は精密なお口の型をもとに作りますが、出来上がってすぐに馴染むものではありません。痛い部分や噛み合わせを調整して、少しずつ自分のさまざまな動きに合った義歯になっていくのです。それに『入れ歯が外れないように抑える』、『力を分散させる』といった役割のために、ある程度の大きさが必要なのです」

保志子さんが大きいと感じていたのは、そういう訳だったのです。


<はぴか情報>
入れ歯の種類にはブリッジ、床義歯、インプラントがあります。ブリッジは失った部分の両隣の歯に金属や陶材の冠をかぶせて人工歯をつけたもの。床義歯は部分入れ歯や総入れ歯のこと。インプラントはあごの骨に穴を開けて、そこに人工歯根(インプラント)を植え込んで人工歯を固定したものです。(資料提供 日本歯科医師会)