羽賀さん一家の

元気ではぴか

第35回 保志子さんの決断
(義歯編)

最後のひと歯

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
入れ歯の汚れは口臭の原因に

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家)は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。ゲートボールを終えた保志子さんは帰宅途中、歯科医の日真名(ひまな)先生にばったり会いました。二人の話題は「入れ歯」のようです。

日真名先生の話によると、金属床と呼ばれる高級入れ歯は耐久性や装着感がさらに良くなりますが、保険の入れ歯でも機能的に問題はないようです。

「入れ歯はオーダーメイド、つまりすべて手作りで、それぞれの人に合うように作られていますから、どちらでも十分満足できるものですよ。ですから、どんな道具にも言えると思うのですが、その人に合った道具が一番良いんじゃないでしょうか。事実、私の患者さんの多くは、保険の入れ歯でも何でもおいしく食べられると、喜んでいらっしゃいますよ」

日真名先生からそう説明を受けて納得しつつも、トメさんのピカピカの高級入れ歯が気になる保志子さんでした。

「ところで、今入れている入れ歯は作ってどのくらいたつのですか?」

「下の孫が小学校に上がった時ですから、もう5年になります。痛くはないのですが、最近何かガクガクして噛みにくくなったような気がします」

「最近、入れ歯の具合を見てもらいに歯医者さんに行ったことはないのですか?」

「ここ2年くらいは行ってないです。おじいちゃんもあんなになったし、忙しくて…」

保志子さんは不具合を感じながらも、2年以上入れ歯の調整に歯科医院に行ったことがなかったのです。内蔵さんの世話に明け暮れる毎日でしたから、無理もありません。

「確かにその通りですね。でもね、じゃあ歯医者さんに通う人が暇な人かというと、そうではありません。みんな自分の仕事をしていて、忙しい人ばかりです。でも、もし病気が悪くなったら、逆に仕事に支障をきたしてしまうから時間を割いて来ているのです。寸暇を惜しんで体を壊せば元も子もありませんからね」

先生の話を聞いた保志子さんは、それももっともだと少し反省し、数日中には歯科医院に行くことを先生と約束して、帰宅の途に着きました。

それから二日後の昼前、保志子さんは、日真名先生の診療所の治療椅子に座っていました。ただ、今朝もゲートボールの調子はいまひとつだったようで、あまり元気がありません。

「おやおや、これはかなりすり減っていますね。それに歯石もたまっていますよ」

保志子さんの入れ歯を見た日真名先生は、そう驚きの声を上げました。

「歯がなくても歯石がつくのですか?」

保志子さんは10年ほど前に最後の一本を抜歯してからは、総入れ歯を入れているのです。

「入れ歯だって、きちんと手入れをしないとタバコのヤニ、コーヒーやお茶のシブ、食べカスなどで汚れてきます。ほら、下の入れ歯の内側に歯石や汚れが付いているでしょ」

保志子さんが、長年使い込んだから入れ歯が黒光りしていると思っていたのは、歯石とそれに付着していた汚れだったのです。先生の話によると、これらの汚れを放置しておくと細菌のすみかとなり、口臭や口内炎、さらには肺炎の原因にまでなってしまうこともあるそうです。

入れ歯を入れてから、なんとなく口臭が気になっていた保志子さんは、入れ歯の手入れが悪かったことが原因だと初めて気がついたのです。


<はぴか情報>
義歯も放っておくと汚れ、病気の原因となったり義歯の機能が低下したりします。義歯を外して義歯用ブラシでしっかりこすり洗いをしたり、清潔に保つために洗浄剤で洗うなど日々の手入れが大切です。(資料提供 8020推進財団)