羽賀さん一家の

元気ではぴか

第49回 初めての赤ちゃん
(歯の芽生え編)

初めてのメンテナンス

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
ムシ歯菌の隠れ家どこに

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男昭夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。羽賀さん一家は加奈さんの長女美代(みよ)ちゃんが初めてのハミガキを迎えるにあたって、あらためて虫歯や歯の役目について語り合うのでした。

「あった、これね」

分厚い『家庭医学大辞典』をめくっていた浮江さんは、歯についてのページをみんなの前に広げました。そこには歯の断面のイラストが載っていて、歯は外側からエナメル質・象牙質・歯髄という3層構造になっていることを、羽賀さん一家は知ったのです。

「エナメル質は歯の鎧のようなもんだな」

大二郎さんの言うように、エナメル質は歯の表面を覆う水晶に匹敵する硬さがある部分です。これは、ハイドロキシアパタイトという特殊な結晶で出来ています。

「でもそんなに硬いエナメル質を溶かすムシ歯菌の酸は、すごいんだね。それからムシ歯が次の象牙質に進行すると痛みを感じるようになるみたいだね」

「よろいは打ち砕かれ、傷を負った状態ということだな」

真剣にイラストを見ている明夫君の横で、大二郎さんは胸を押さえながら『やられた』というポーズをしておどけていました。

ムシ歯はその進行度によってC1~C4に分類されます。C1はエナメル質・C2は象牙質・C3は歯髄にまで進んだムシ歯を表わしていて、C4になると歯の上部が崩壊して治療不可能となり、抜歯に至ってしまうのです。

「家に例えたら、全壊で修復不可能というわけだな、残念!」

大二郎さんの言う通りなのですが、大二郎さんこそ流行から少し遅れているようです。

「でも歯の下側には、エナメル質がないんだね」

歯は、歯肉から上に出ている歯冠と歯肉の中で骨に埋まっている歯根に分けられます。そしてエナメル質は歯冠の部分だけにあり、歯根にはその代わりにセメント質が表面を覆っています。このセメント質は歯根膜という柔らかいクッションを介して骨と結びついているのです。

「そういえば日真名先生が、私の歯が浮)く・かんで痛いという症状は、この歯根膜が炎症を起こしている場合が多いって、おっしゃっていたわ」

「僕の歯周病も、歯の病気じゃなくて、この歯槽骨歯を支える骨が溶けているから、歯を失っているのでなく骨の病気だと考えなさいと言われたよ」

浮江さんと大二郎さんも歯のイラストを見ながら、自分自身の病気を振り返っていました。

「歯は子供の歯が20本、大人の歯が28本あって、どの歯にもそれぞれ違った役割があるので、全部大切にしないといけないということね」

「唯の言う通りよ。家族だって、一人だって欠かすことができないのといっしょなのよ。お母さん、明日、美代を連れて日真名先生の所に行ってくるわね」

「そうね、何でも最初の一歩が大事だからね。それに美代ちゃんが早く最初の一歩を歩んでくれたらうれしいんだけどね」

乳児期からの歯と口のケアが重視され、歯が生えてきたらムシ歯がなくても歯医者に健診(メンテナンス)に行くお母さんが増えています。その理由は親自身が予防の知識を持ち、口の中をきれいにする習慣を身につけることが、子どもの歯をムシ歯にしないことにつながるからです。つまりムシ歯は感染症であると同時に、両親の食生活やハミガキ習慣が子どもにそのまま伝わる生活習慣病ともいえるでしょう。


<はぴか情報>
過去1年間に歯科検診を受けた人は、わずか16.4%というデータがあります。年1、2回の検診は欠かせません。また検診をきっかけに、かかりつけの歯科医を持ちましょう。歯と口の中の健康を生涯保つため、とても大きな役割を果たします。(資料提供、8020推進財団)