歯とお口のアレコレ

スポーツによるケガについて

スポーツによるケガが最も多い部位は口の周りです

平成14年度学校安全・災害共済給付対象者の障害見舞金の給付状況では、歯牙の障害が最高で31%を占めています。

また、平成14年度に愛媛県歯科医師会が県下中高校運動部員に実施したアンケートによると、顎顔面・頭頸部のゲガの経験のあるものは中学生で37.6%、高校生で49.8%という値でした。ケガの種類は、口の中をきった、歯が欠けたなど、口の周囲の外傷が最も多く、中学、高校とも約75%を占めています。

これは、スポーツ外傷の外力が、口の周りに集中しておこることを意味しています。スポーツによるケガは手足、顔などいろいろなところに起こり得ますが、この中で最も多いのは顔面、特に口の周りであるということです。脳震盪も直接頭を打っておこったのではなく、口の周りに受けた外力が間接的に脳に衝撃を与えているのです。

障害の種類

歯科領域のスポーツ外傷についての調査

平成14年愛媛県歯科医師会

愛媛県内の中学校156校、高等学校73校の運動部員に対する調査を各担当教諭を通して行った。
中学校の有効回答者数は338名で受傷者数は127名(37.6%)、高校の有効回答者数は325名で受傷者数は162名(49.8%)であった。

  • 軟組織の損傷とは、くちびる、舌がきれた等。
  • 歯牙の損傷とは、歯のつめものがとれた、歯がかけた、われた、歯がぐらぐらになった、ぬけた等。
  • なお、顎骨骨折はゼロだった。

口の周りのケガをおこしやすいスポーツがあります

前述の愛媛県歯科医師会の調査で、スポーツ別の顎顔面の受傷経験者率をみてみますと、高校生の場合は、テニス0%、ソフトテニス2.7%に対してラグビー100%、柔道100%、野球80%となっています。高校生ラグビーに関して、宮沢らは受傷経験者率が66%であったと報告しています。これらから、受傷しやすいスポーツとしてラグビー、バスケットなどの選手同士が接触しやすいもの(コンタクトスポーツ)、柔道、空手などの格闘技、その他野球などがあげられます。

スポーツ別受傷者数

愛媛県歯科医師会 「歯科領域のスポーツ外傷についての調査」より

スポーツ種目上に表示した数字は(赤)各々の種目ごとの受傷者率(受傷者/回答者)をあらわしています。
グラフ作成上、回答者数10名以下は表示していません。

脳震盪など脳外傷に対する注意が必要です

口の周りの外力は、口の周りのケガだけではなく、脳震盪などの脳外傷をも引き起こします。片山の調査(1999)によると、脳震盪は決して一過性のものではなく脳の組織を破壊する可能性があるとされています。脳の外傷は致死的な経過をとることがあるので、外力から脳を守ることは、大変重要なことです。現に、アメリカでは単に歯や口の外傷を予防するという観点からではなく、脳を守る目的で使用されています。

前述の愛媛県の調査でも脳震盪の発生が多く、中学では全受傷者の7.9%、高校では13.6%となっています。種目別では、柔道、ラグビー、バスケット、サッカーなどのコンタクトスポーツに多くみられました。

マウスガードは口の周りのケガや脳震盪の予防に効果があります

Sane(1989)は、1962年に米国でアメリカンフットボールやバスケットボールなどのコンタクトスポーツにおいてマウスガードが義務化される前と後の顎顔面口腔領域の外傷の発生頻度を比較報告しています。この報告によると、義務化前が、50%の選手に外傷があったのに対し、義務化以降は、1.4%に激減したとされています。日本では1991年の石島らのホッケー選手に関する報告があります。これによるとマウスガード装着した場合は、外傷が約3分の1に減少したとしています。(脳震盪の予防効果

マウスガードの外傷の予防効果
石島ら(1991)

ただし、マウスガードを装着していても100%外傷を予防できるというわけではありません。しかし、防止できなかった場合でも重傷には至らず、軽微なものとなる場合がほとんどです。歯をマウスガードで覆うとこにより、装着者本人のみならず、相手選手を傷つけることも防げます。

参考文献

  1. 片山容一 : 第10回スポーツ歯学研究会特別講演抄録集. 1999
  2. Sane J : Comparison of Maxillofacial and dental injuries in four contact sports/American football, bandy,basketball and handball Am J Sport Med 16 : 47-51. 1988
  3. 石島 勉, 山口敏樹, 月村雅史, 他 : マウスガードの使用と外傷予防効果-北海道学生アメリカンフットボール選手による調査, 東日本歯学雑誌, 10 : 85-94, 1991