愛媛新聞に掲載記事のバックナンバー
平成15年8月 第3週
歯を抜く理由 医師の説明よく聞いて
患者さんにとって、「どんな歯が残せて、どんな歯は抜かないといけないか。」という事はとても分かりにくいことと思います。そのためか 「あの歯医者へ行ったら悪くもない歯を抜かれた。」などという人をときどき見かけます。
しかし、歯科医師は基本的には歯を抜きたくない気持ちでいっぱいで、どうすればその歯を残せるかという事をいつも考えています。
それではどうしても抜かなくてはならない歯とは、どんな歯でしょうか?
まず最初に、歯周病がかなりひどくなった歯です。このような歯の場合、そのままにしておくと物を噛む度に痛みが出たり、たびたび歯肉が腫れたりします。それどころか歯槽骨(歯を支えている骨)の吸収が進んで隣りの歯までも抜かなければならなくなる場合もあるため抜歯します。
次に、むし歯のひどい歯です。歯肉や骨のふちより深いところまでむし歯になってしまった場合、そのままにしておくと歯肉が腫れてきたり突然痛みが出てきたりするため大抵の場合は抜歯します。
また歯を打撲したり、強く咬みすぎたりして、歯根(歯の根っこの部分)が破折してしまった場合も割れ方によっては残すことが不可能なため抜歯をする場合があります。
それ以外にも なんとか歯を残すために根管治療(歯の神経の治療)を行なっても根の形態が複雑であったりすると なかなか症状が改善せず痛みが続く場合があります。このような場合も非常に残念ですが抜歯をすることがあります。
その他のものとしては、親知らずとか歯並びの非常に悪い歯などは 歯本来の役割を果たさないばかりか 歯肉が腫れる原因となったり、隣の歯にむし歯を作ってしまうために抜歯をすることがあります。また歯の役割は果たしていても歯並びをきれいにする矯正治療のために抜歯する場合もあります。
いずれにしても、われわれ歯科医師はいままで述べてきたような理由により その歯を残しておくことによる利益とその歯を抜かずに放置した場合に生ずる不利益とを比較して、不利益が大きい場合に抜歯を勧めます。
残念ながら抜歯をしなければならなくなった場合は主治医の説明をよく聞いて、なぜこの歯を抜かないといけないのかという理由を十分に納得した上で治療法の一つとして抜歯をしてもらいましょう。
ところで、実際に歯を抜くことが決まったら 誰でもすぐに抜歯してもいいのでしょうか?患者さんの中には 病気によって血が固まりにくくなっている方や病気の予防のために血を固まりにくくする薬を飲んでいる方がいると思います。そのような方は抜歯をすると血がなかなか止まらない場合があります。
そのようなことのないように歯を抜く前に、血圧の高い方、肝臓や腎臓の悪い方、心臓病や脳血栓の治療を受けている方などは 主治医にそのことをきちんと報告してから治療をうけるようにしましょう
平成15年8月18日
愛媛新聞掲載