TOPICS

いろ歯にほへと

愛媛新聞に掲載記事のバックナンバー

平成15年5月 第1週

唾液の機能 口の清潔保つ防衛軍

唾液は古今東西「眉(まゆ)に唾(つば)をつける」、「吐(は)いた唾(つば)は飲めぬ」、「後ろを向いて唾(つば)を吐(は)く」、「天に向かって唾(つば)を吐(は)く」というような言い方をされ、概してあまりいいイメージは持たれていないと思います。唾という文字は「つ」、「つば」、「つばき」などと読まれます。また、唾液を意味する方言も多く、関東や東北ではシタキ、チワ、ツウ、タンペ、クチミズ等様々な表現があります。この「唾(つ)」は「津(つ)」と書かれる場合もあるそうで、江戸時代の平賀源内作の滑稽本「風流志道軒伝」の一節に、

「飲めば津にむせかえるばかりおかしけれども」とあります。「津」は唾液の意味の外に、船着場や港の意味や、泉水のような、水の湧き出る所をも意味します。人や物が集まりたまる場所にちなんで、タマルがつまって「ツ」と成ったとの説があり、唾液も口にタマルから、ツと呼ばれますが、ツは吐く音に由来するとも言われています。

さてこの唾液ですが、耳下腺、顎下腺、舌下腺という3つの分泌腺から分泌され、その量は1日に1000~1500mlに達します。その成分は、99.5%が水分ですが、ムチンなどの蛋白質やアミラーゼやリゾチームといった酵素を含みます。唾液の分泌速度は食事中、会話中、くつろいでいるときなど、行動によって大きく変化しますが、口の中に食べ物などの刺激がない状態でも唾液は分泌されます。一方、食事中には明らかな刺激が加わり、各唾液腺から多くの唾液が分泌されます。唾液の分泌は交感神経と副交感神経の綱引きで決まります。一般に交感神経刺激時(緊張しているとき)には粘りのある唾液が少しだけ分泌されるので、口は渇き粘つきます。逆に、食事中やゆったりした気分のときは、副交感神経が働き、希薄な唾液がたくさん分泌されます。

唾液には多くの働きがあります。食物を飲み込みやすくしたり、味覚の発現、緩衝作用、消化作用、水分代謝の調整、舌や唇の運動を円滑にしたり、口腔粘膜や歯の保護、抗菌作用、体内の不要物、有毒物を排泄するなど様々な働きがあります。いわば「口の中の防衛軍」といえるでしょう。口の中を清潔に保ち、正常な機能を維持するにはなくてはならないものなのです。

最近「口が渇いて仕方ない・・・」と慢性的に口渇を訴える、口腔乾燥症(ドライ・マウス)の患者さんが増えています。唾液が少なくなると、「しゃべりづらい」「食べ物が飲み込みにくい」「味覚がわからない」といった症状が現れ、歯周病、ムシ歯などの病気にかかりやすくなってしまいます。

唾液が少なくなる原因としては加齢に伴うものや、薬剤によるもの、また糖尿病やシェーグレン症候群といった疾患や自律神経失調症・ストレスなどが知られています。特に高齢者は、薬剤を服用しているケースが多いため、唾液の減少がみられる場合が多くなります。

「唾棄すべき・・・・」などといわれるこの唾液ですが、人が生きていくためには、「唾液」はなくてはならない大事な役割を担っています。よくかんで、唾液と食物をよく混ぜ合わせることは、健康を維持増進するのにとても大切なことです。

平成15年5月5日(月)
愛媛新聞生活欄16面掲載