羽賀さん一家の

元気ではぴか

第32回 内臓の願い
(口腔ケア編)

口腔ケアしまっしょい

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
水分補給でスムーズな嚥下を

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。ムシ歯の治療を終えた内蔵さん。今回からは口腔ケアをしてもらうようです。

前回の治療から1週間後、日真名先生(ひまなせんせい)が衛生士さんと羽賀さんの家にきました。今回は大きなバッグではなく、口腔ケアグッズと書かれたプラスチックの容器を手にしていました。

「お口の中がカラカラになっているので少し湿らせましょう。もう少し水分を取ったほうがいいですよ」

衛生士さんは内蔵さんの口の中を観察してから、先にガーゼをくくりつけた割りばしを容器の中から取り出しました。そして、水に濡らしたガーゼで固くなった口の中の汚れを少しずつ取っていきました。その時の内蔵さんは、まるで水あめをおいしそうになめているように、気持ちよさそうな顔をしていました。

次に衛生士さんは、人体の55~60%は水でできていて1日1・5~2リットルの水分補給が必要なこと、介護を受けている人は頻尿や失禁を気にして、水分摂取を避けて脱水症状に陥ることが多いので、家族や介護をしている方が気を配ってほしいことなど、いくつか改善点を指摘してくれました。

「じゃあハミガキもしてみましょう。自分でうまくできるようになるまで介護の方の手助けが必要ですから、一緒に見てください」

そう言われた浮江さんと保志子さんは、後ろからのぞき込んでやり方を教えてもらい、その後実際にハミガキの介助も体験しました。また、歯ブラシも介護をする時は、弱った口腔粘膜を傷つけないよう先が小さめで少し柔らかめの歯ブラシを選ぶことや、手の不自由な人でも使えるように工夫された患者本人のトレーニング用歯ブラシについても教わったのです。

「これは何に使うのですか?」

浮江さんは上に穴の開いたインスタントコーヒーの空きビンを指して、衛生士さんに尋ねました。

「ああ、これは自家製吸引器です。内蔵さんはまだ大丈夫ですが、水をうまく吐き出せず、むせてしまう方も多いのです。ですから、口にたまった水をこれで取ってあげるのです。ちょっとやってみましょう」

衛生士さんはインスタントコーヒーの空きビンにホースを2本差し込み、一方を掃除機につなげてスイッチをいれました。そして、もう一方のホースを内蔵さんの口の中に入(い)れると口にたまった水が勢いよくビンへ流れていきました。

「あっ、水が吸いだされたわ。これを使えばゴホゴホならなくてすみますね」

浮江さんはそれ以外の手作り介護用品も見せてもらい、介護は工夫次第でお金をかけずにできることを知りました。

ハミガキ指導後、先生は内蔵さんに何回か「ごっくん」と飲み下すことを繰り返すテストをしてもらっています。

「やはり飲み下すことがうまくできないようですね」

先生の話では、食べることは摂食、嚥下運動といって、食物を認識して口へ取り込むことから口腔、咽頭、食道へ食物を運ぶ一連の行為によって成り立っているそうです。ですから、もしうまく食事ができない時は、どの段階に問題があるか把握し、それに合う有効な指導や訓練を行うことが必要なのだそうです。

内蔵さんは口腔乾燥が強いので、水分を十分に取るだけでなく、人工だ液や少量の水を口の中に噴霧した方が効果的なようです。また口唇、舌などの力も弱っているので、筋肉のストレッチや飲み下す訓練も同時にしていくことになりました。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
要介護者の口腔清掃は介助者だけが行うのではなく、本人の失われた清掃能力を少しずつ引き出すようにするとよいでしょう。そのために清掃用具を工夫したり補助具を活用して、本人の残存能力を生かし自立度の向上を図ることが重要です。(資料提供・愛媛県歯科医師会