羽賀さん一家の

元気ではぴか

第47回 初めての赤ちゃん
(歯の芽生え編)

ママは大慌て

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
食い止めろ、怖いムシ歯菌

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して帰省中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男昭夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。ある日加奈さんは、生後6カ月の長女美代(みよ)ちゃんに歯が生えてきたことに気付きます。

「お姉ちゃん大変、美代ちゃんがむずかっているよ」

夕食が終わって加奈さんが後片付けをしていた時、美代ちゃんをあやしていた唯ちゃんが急いでやって来ました。大慌てで加奈さんが様子を見に行くと、美代ちゃんは口をモグモグさせながら、少し不機嫌そうな顔をしていました。

「どうしたのかな。お腹も満腹だし、おむつも替えたとこなのに?」

美代ちゃんを抱き上げた加奈さんは、しばらくして突然声を出しました。

「あっ、歯が生えてる。この下のあごを見てみて」

「ほんとだ。美代ちゃん、歯が生えてきたのね」

二人が言うように美代ちゃんの下あごの歯茎からは、小さな歯の頭が顔を出していたのです。赤ちゃんは生後6~8カ月ごろになると、たいていは下の前歯から乳歯が生え始めます。そのため、乳歯の生える時期が近づくと歯肉がムズムズするのか、歯ごたえのあるものをよく欲しがります。そんなときは、スティック状に切った野菜を持たせてあげてください。そうすれば野菜の味やにおいに慣れるだけでなく、歯肉も丈夫になるのです。

「歯が生えてきて少しイガイガしていたのかもしれないわね。でも一安心したわ」

その後、羽賀さん一家はニコニコ笑っている美代ちゃんを囲んで一家団らんの時間を過ごしていました。

「歯が生えてきたから、美代ちゃんも今晩からハミガキしないといけないよね」

そう明夫君が言うと、大二郎さんが自信たっぷりに答えました。

「大丈夫だよ。美代ちゃんは母乳やミルクしか飲んでいないから、ムシ歯にはならないさ」

「そういえば赤ちゃんの口の中には、ムシ歯菌はいないって何かで読んだことがあるわ。だからよく気をつければムシ歯にならないかもしれないわね」

浮江さんも大二郎さんの話にうなずいて、そう言いました。しかし母親教室で学んだ加奈さんは、あきれ顔です。

「美代をこれから無菌室で育てるんじゃないのよ。それにお父さんがよく美代にキスしているからムシ歯菌だって、とっくにうつっているわよ」

確かに生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、ムシ歯の原因となるミュータンス菌は住んでいません。しかし日常生活のどこかで菌は必ず体の中に入り込んでいくのですから、あまり神経質に考えずに、これからは歯と口のケアに注意していくことが大事なのです。また以前『ほ乳瓶う蝕』といって、ジュースやイオン飲料をほ乳瓶に入れて子供を寝かせつけた為に、多くの乳児にムシ歯を多発させたことがありました。最近ではその過ちは少なくなりましたが、いまだに母乳では大丈夫だと思われているようです。しかし母乳にも糖分が含まれているため、ムシ歯にならないとはいえないのです。したがって1歳を過ぎてからの夜中の授乳は、口の中の状態によってはムシ歯になる恐れがあるので注意が必要です。

「ほらやっぱり、美代ちゃんも今日からハミガキしないといけないんだ」

「でもね、すぐにはムシ歯にならないから、2~3カ月くらいは食後にぬれたガーゼや綿棒で歯を掃除してあげるだけでもいいのよ」

うれしそうにそう言った明夫君に加奈さんは母親教室で習ったことを教えてあげました。


<はぴか情報>
バイオフィルム(歯垢(しこう))内の細菌は固まりになることで互いの存在を認識し、会話を始めることが分かってきました。そして細菌の遺伝子発現が変化し、性質を変化させ生き延びて人に病気を起こさせる。こうした細菌間の会話や遺伝子発現が変わるシステムを細菌間コミュニケーションと呼び、最近の細菌学で最もホットな話題です。(資料提供 愛媛県歯科医師会)