羽賀さん一家の

元気ではぴか

第28回 やってきた婿殿
(咀嚼編)

ハッスル!ハッスル!

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
よく噛み、だ液でがん予防

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。浮江さんを相手にした「歯の講義」を終えた加奈さん。今度の生徒は夫の板井洋さんのようです。

タバコを吸いに外に出ていた洋さんが寝室に入ってくるなり、母子手帳を見ていた加奈さんが言いました。

「赤ちゃんができるんだから、そろそろタバコもやめてもらわないとね」

まだ禁煙すると宣言できない洋さんは、例の作り笑いをしながら話をそらそうとします。

「ハハハ、だけど『ひみこのはがいーぜ』とは、うまく言ったもんだね。よく噛むとつばがたくさん出て、口の中がきれいになり『は』の歯の病気を防ぐことや、消化酵素がたくさん出て『い』の胃腸の働きを促進するというのは何かで読んで知ってたけど、『が』のがんを防ぐには、こんな効果もあるのかと目からうろこが落ちたような気分だよ」

「つばじゃなくて、だ液よ。あなた、つばなんて言っているようじゃあ、まだ、だ液のありがたさを理解してないようね。それにタバコを吸っているようじゃあ、がんの予防にはほど遠いんじゃないかしら」

禁煙の話から離れたい洋さんに、加奈さんはそう冷たく言い放ち、以前母親教室でもらった『だ液の効用』というパンフレットを手渡しました。

「えっ、これを読むのかい。なになに、『だ液に含まれる酵素には、発がん物質の作用を消す働きがあると言われています。そのため、食物を30秒以上だ液に浸すのが効果的であり、よく噛むことで、がんも防げるのです』。そうか、それで君はだ液と言っていたんだね」

洋さんも少し納得したようです。

「そうよ。それに最近増加しているアレルギーも、咀嚼回数の減少が原因の一つになっているかもしれないらしいの」

加奈さんの目つきが、先ほどのクイズの時のように輝いています。

「へえ、それはどうしてだい?」

加奈さんからもらったパンフレットにはどこにも書かれていなかったので、洋さんは不思議そうに尋ねました。

「あのね、食べ物をよく噛まないで未消化の状態で腸から吸収すると、異物として認識され、アレルギーの抗原になりやすくなるらしいの。この前の『あるある健康家族』っていう番組でやっていたの。それから…」

その後、洋さんは『咀嚼とだ液の効用』という講演を、約10分間眠い目で聞かされる羽目に陥ったのです。

いずれにしても、最近の加奈さんの健康オタクぶりに一抹の不安を感じながらも、『ぜ』の全身の体力向上と何事にも全力投球するには丈夫な歯が不可欠だと認識したのですから、有意義な一夜であったことは間違いありませんでした。

「これから3人の生活になるんだから頑張ってよ、新米パパ」

加奈さんがお腹を触りながら洋さんを見つめて言いました。

「わかっているさ、ハッスル、ハッスル」

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
ゆっくりよく噛むことの効用のおさらいです。(1)肥満を防ぐ(2)味覚の発達を促す(3)発音をはっきりさせる(4)脳の働きを活発にする(5)歯の病気を防ぎ、口臭を少なくする(6)がんを防ぐ(7)胃腸の働きを促進する(8)全身の体力向上とストレス解消。(資料提供 8020推進財団)