羽賀さん一家の

元気ではぴか

第27回 やってきた婿殿
(咀嚼編)

少しの工夫

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
意識して噛む回数を増やそう

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。カレーやハンバーグなど、あまり噛まなくても食べられる料理が歯の悪循環を生むと聞いた浮江さん。明夫くんによく作っていることを後悔しているようです。

「別に料理を手抜きしたいわけじゃないのよ。みんなが食べたいって言うから……」

カロリーや栄養のバランスを考えて食事を作ることが大事なのは、周知のこと。ですが、噛む回数のことまで考えて食事を作るとなると、何をどうしていいやら。複雑な迷路にでも入り込んでしまったような錯覚に陥った浮江さんでした。少し落ち込んだ顔をしている浮江さんに、加奈さんは助け舟を出してあげました。

「この前の母親教室で教わったんだけど、料理を作る側と食べる側の二つに分けて考えるといいみたいよ」

「作る側と食べる側に分けて考えるの?」

「そう。まず作る側で重要なことは、同じメニューの食事でも少しの工夫をすること」

「少しの工夫?」

「例えばカレーを作っても、中に入れる具を大きめにするとか、カツカレーにして、噛む回数を多くしないと食べられないようにするの。それから、栄養が高くてよく噛まないといけない食材をもう1品加えることも効果があるそうよ」

今度は、生徒が浮江さん一人だけという加奈さんのにわか講義が再開したようです。

「どういった食材を選んだら良いのかしら?」

世界一の長寿国といわれる日本の高齢者が子供のころに親しんできた食材、豆・ゴマ・ワカメ・野菜・魚・シイタケ・芋などは栄養のバランスが良いとされる食品群です。『まごはやさしい』と覚えておいて、これらを参考に選ぶと良いことを加奈さんは浮江さんに伝えました。

「孫は優しいね。そのお腹の赤ちゃんが、そうなってくれたらうれしいんだけど。じゃあ、食べる側はどんなことに気をつけたらいいの?」

「噛む回数を意識的に増やす工夫が必要なの。例えば……」

加奈さんは1回ずつの口に入れる食べ物の量を減らし、先に口に入れた食べ物をよく噛んでから次の食べ物を口に入れること、汁物、お茶などの水分と一緒に流し込まないこと、早いスピードで噛むのではなく、ゆっくり噛んで、だ液と混ぜ合わせながら食べることなど、以前母親教室でもらった資料にある『食べる時の注意点』を読み上げました。

また、それに続く『昔は「おふくろの味」と言われていた食生活が、現代では「袋の味」に変わってきている』という説明の部分を読んでいる時、浮江さんはかなり複雑そうな顔つきになりました。

「なんでも便利になってきているのも考えものよね。袋をあけて電子レンジでチンばかりじゃあ、いけないわよね」

ザーザー音を立てている食器洗い機を見つめながら、浮江さんは自問自答していました。

「ところで、お母さん。おじいちゃんの歯はどうしているの」

突然、加奈さんが内蔵さんのことを話題にしたので、浮江さんはビックリしました。

「おじいちゃんの世話は、おばあちゃんに任せてあるからどうかしら。でも、突然どうしたの」

「卑弥呼の『の』は脳を発達させるだけでなく、ボケ防止にも役立つのよ。歯をきちんと治している老人は、治していない人に比べて痴呆になりにくいと先生も言っていたわ」

この時の会話から、内蔵さんの介護で口腔ケアの重要性がこの後クローズアップされていくようになることを、誰が想像できたでしょう。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
よく噛むことで、あごの骨や筋肉が動いて血液の循環がよくなり、脳細胞の動きが活発になり、脳の老化を防ぎます。高齢者の場合「歯が抜けてよく噛めない」「軟らかい食べ物ばかりを食べてしまう」ということを繰り返すと、脳細胞への刺激が少なくなり、老化につながります。(資料提供 8020推進財団)