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いろ歯にほへと

愛媛新聞に掲載記事のバックナンバー

平成14年10月 第3週

食文化と歯 軟食化で噛む回数減

暑い夏が終わり、やっと、涼しく過ごしやすい秋がやって来ました。秋といえば、スポーツの秋、勉学の秋、そしてなんと言っても食欲の秋ですね。食欲をそそられて美味しい食べ物、まつたけ、さんま、栗と、続々登場しています

日本には、四季折々の食物をそれぞれに調理し、よく噛んで食べて味わってきた食文化がありました。また、日本語には、「シコシコとした美味しいうどん」、「ホクホクの焼き芋」、「パリッとしたせんべい」、「パリパリ、シャキシャキした野菜」など食感を表す言葉が非常に豊富です。このように比較的硬い物でもよく噛んで食べてきた日本特有の食文化は、歯ごたえ、歯ざわりも楽しんできました。

しかし、第二次世界大戦後わが国の食事は欧米化し軟食化の傾向が飛躍的に進みました。

また、栽培法の進歩や輸入により、一年中食べられる物が多くて、いつが旬なのか忘れてしまう程、食物の季節感が失われています。いまや冷凍・加工インスタント食品やファーストフードに象徴されるように単純化・軟食化の傾向にあります。

人類は、火の使用により硬くて冷たい食物から、軟らかくて温かい食物を摂るように変りました。弥生時代の卑弥呼の食事を再現すると約4000回噛む必要がありました。また、戦前の普通の和食では約1400回必要でした。ところが現代人は1回の食事で約600回と、古代人の六分の一しか口を動かしていないのです。そして、ほんの半世紀で噛む回数が半分になっています。現在、日本の平均寿命は世界トップクラスです。しかし、噛まなくなった世代が高齢を迎える頃、長寿国日本はどうなっているのでしょう。

人間は、噛むことで食べ物の味や匂いを口の中で感じ、さらに食感、歯ざわりを味わいます。よく噛むと唾液がたくさん出て、口の中の汚れを洗い流したり胃腸での消化を助けます。唾液はそれだけでなく、口から侵入しようとするウイルスや細菌を破壊する酵素や活性因子・免疫抗体を含みます。そして、時間をかけて食事することで、過食や肥満の予防にもなり、また、脳を刺激して、高齢者にとっても老化予防(ボケ防止)になるのです。反対にあまり噛まなければ、まず噛む筋肉が弱くなり成長期の子供では顎の骨の発育が悪くなり歯並びが乱れ、また、唾液の量が減ってむし歯や歯周病が起りやすくなります。

食事の本来の目的は、生きていくためのエネルギーを取り入れることです。しかし、最近では表面的なグルメがもてはやされるかたわら、家族の生活時間がバラバラになり家庭内でも孤食の傾向が進み、人とのコミュニケーションを図り心を満足させるという食の大切さが失われつつあります。今こそ食育・食のあり方を真剣に考える必要があると思います。四季折々の食べ物を前に家族で楽しく食卓を囲むという昔ながらの食文化の良さをじっくりと噛みしめていただきたいと思います。