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いろ歯にほへと

愛媛新聞に掲載記事のバックナンバー

平成14年9月 第1週

口腔ケア 細菌除去し健康維持

夏休みも終わり、今日から新学期が始まります。賑やかだった歯科医院の診療室も雰囲気が一変していることでしょう。そこで、今回は成人及び高齢者を対象とした「口と全身の健康との関係」についてお話しします。

口の中の細菌は、私たちの予想以上に全身の健康に悪影響を与えている事が最近の研究で明らかになってきており、「口腔内バイオフィルム感染症」と呼ばれています。

聞き慣れない言葉ですが「バイオフィルム」とは、細菌同士がねばねば(多糖体)を出し合って互いに一緒になり、何かに層状(フィルム状)に付着している状態のことを言います。口の中の歯に付着している歯垢(デンタルプラーク)もバイオフィルムの一つですし、また、入れ歯の汚れ、カンジダというカビの一種や様々な細菌を含んでいるデンチャープラークも同様です。”ヌルヌルしたおばけ”とも呼ばれています。

歯の表面の口腔バイオフィルム形成に対して主役を演じている細菌は、むし歯の原因菌であるミュータンス連鎖球菌であることが分かっていますが、口の中には500種類を超える細菌が住み着いており、歯周病菌をはじめ緑膿菌、真菌なども一緒になってバイオフィルムが形成されています。そのせいか、歯の表面や歯周組織に強く付着していること、抗生物質に対する抵抗力が強まっていること、バイオフィルムから飛び出してくる細菌によってさまざまな感染がひどくなるなどのいろいろな問題点が指摘されています。

介護保険制度が実施される以前からも高齢者、特に要介護者の口腔ケアの必要性が訴えられ、誤嚥性肺炎を如何にして予防するかに焦点が当てられてきました。高齢者の場合、嚥下反射、舌運動機能および咳反射が低下して、就寝中に口腔内バイオフィルムの細菌が唾液とともに肺に侵入する機会が増加します(不顕性誤嚥)。それを防ぐために歯、入れ歯、舌を含めて口の中をきれいにすることで原因不明の発熱や肺炎が減少したり口臭が減ったという報告が増えていますし、高齢者の自立に向けたセルフケアの一環として注目を浴びています。また、口腔内バイオフィルムの細菌が歯と歯ぐきの間から血管内に侵入し循環器系疾患、例えば、細菌性心内膜炎、動脈硬化症に悪影響を及ぼしたり、細菌が出す毒素によって、発熱、妊娠トラブル(低体重児出産や早産)、骨粗しょう症、糖尿病にまで深く関わっていることが分かってきています。

このような口腔内のバイオフィルムを除去する方法は、ブラッシング(歯磨き)が有効なのは言うまでもありませんが、正しいブラッシングの方法を身につけることと適切な器具を選ぶ必要があります。また、磨きにくい場所などはブラッシングだけでは細菌がすべて除去されませんので定期的に歯科医院における専門的なケア(PTC)と歯磨きのアドバイスを受けることをおすすめします。

歯があっても無くても、お口の中のセルフケアが健康の最初の一歩なのです。

平成14年9月2日(月)
愛媛新聞生活面掲載