羽賀さん一家の

元気ではぴか

第33回 内臓の願い
(口腔ケア編)

臭わなーい!

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
口の清掃で肺炎死亡率は1/3に

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。口腔ケアを始めた内蔵さん。口の中の状態もだいぶ改善されたようです。

内蔵さんの口腔ケアを始めて1カ月後、日真名先生(ひまなせんせい)が家に来ると保志子さんはうれしそうに話しました。

「先生、昨日おじいちゃんがみんなと一緒に食事をしたんですよ。あんなに嫌がっていたのに、本当にQOなんとかが良くなったんですね」

「それはよかった。口腔ケアの目的は口の中の病気や誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を予防してQOLの質を向上させることですから、少しずつ効果が出ているのでしょうね」

「ごえんせい肺炎?」

またまた、浮江さんが初めて聞いた言葉が出てきたようです。

「そう誤嚥性肺炎です。私達は普段『ゴクリ』とつばを飲み込んで菌を胃に流し、胃酸で殺菌しています。しかし、高齢になると『ゴクリ』がうまくできなくなるため、口の中の菌が気管に紛れ込み肺炎を起こす危険性が高まるのです。高齢者の肺炎の多くは、この誤嚥性肺炎だといわれていますし、食べ物を飲み込む時の明らかな誤嚥よりも自覚できない睡眠中などの誤嚥の方が多いようです。ですから、口腔内の細菌を減少させる口腔ケアが有効となるのです。ある老人施設で、口の清掃を念入りにしたグループとそうでないグループとで肺炎で亡くなる率を比べたところ、念入りにしたグループの方が肺炎で亡くなる率が3分の1以下に抑えられたという報告もあります」

最初はちょっとめんどうだなと思った浮江さんも、内蔵さんの変ぼうに口腔ケアの重要性を実感していました。

「口腔ケアの効果に本当にびっくりしました。おじいちゃんのお口のにおいも、だんだんと気にならなくなったような気がしますが、やっぱりそのおかげですか?」

先生もうれしそうに答えました。

「それはよかったですね。内蔵さんの場合、だ液の分泌が減って口の中が乾き、口臭が強くなっていたのです。軟らかめの歯ブラシで口の中、特に舌の清掃を続けたことと、水分を十分に取るように改善したのがよかったのでしょうね」

「口臭はどうやったらなくせるのですか?」

浮江さんは以前から自分自身も口臭のことが少し気になっていたので質問してみました。

「口臭の主な原因は口の中の細菌が歯垢分解をして作り出した硫黄などの化学物質です。ですから口臭を減らす一番の方法は、きちんと歯を磨いて細菌の繁殖を抑えることです。最近は大学病院にも『口臭外来』ができていますし、口のにおいを気にして他人の近くで話せない、そんな不安をもった人が増えているのでしょう。でも、ほとんどの人が多少の口臭があるのは異常でないのに、それを心配しすぎる傾向にあるようです。口臭測定器具(こうしゅうそくていきぐ)もあるので、実際に調べれば安心できるでしょう。しかし、歯周病の人は歯周病菌が悪臭の原因となるので、その治療をしなければ治りません。また、消化器の不調やストレスが原因となって腸内でガスが発生し、それが血液や肺を経由して吐く息が臭くなることもあるようです。この場合は、口の中を洗っても効果はなく、根本的な原因を取り除くことが必要でしょう」

浮江さんは、口臭もくいしばりによる痛みと同じようにリラックスが大事なのだと以前のことを思い出しました。リラックス、リラックス。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
嚥下(飲み下すこと)と呼吸は相互作用によって行われています。老化するとこのタイミングが崩れ、食べ物やだ液が誤って気管に入る可能性があるので、事前の症状(むせ、せき、食物残留感、声の変化など)に気をつけましょう。(資料提供 8020推進財団)