羽賀さん一家の

元気ではぴか

第30回 内臓の願い
(口腔ケア編)

口から食べたい!

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
高齢者は「根面う蝕」に要注意

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。日真名先生(ひまなせんせい)の往診を受けた内蔵さん。まずは、入れ歯の不具合を調整してもらいました。

日真名先生は治療を終えた後、病状と今後の治療計画を3人に説明してくれました。

「入れ歯の不具合な所は調整しておきましたから、これで少しは食事もしやすくなるでしょう。それから、内蔵さんのお口には歯が2本残っていますが、1本がかなりグラグラになっていて食事がしにくいようです。そのため……」

先生の説明では、内蔵さんは生命の危機にあったのですから無理もありませんが、倒れてから口の中のことは置き去りだったようです。その結果、義歯は合わなくなり、口の中に傷がたくさんでき、痛くて食べられなかったのです。また、残っていた2本の歯のうち右上の奥歯は動揺がひどくて強く噛めず、左下の犬歯は『根面う蝕』という高齢者特有のムシ歯になっていたようです。

治療計画によると、上の歯は脳こうそくを診てもらっている先生と相談して抜歯をするそうです。というのも、内蔵さんの飲んでいる薬の中に、血をサラサラにする作用の薬があり、制御しておかないと抜歯後の出血が多くなるそうです。また、下の歯は冷たいものがしみるので、白い詰め物をするそうです。

最初の往診から三日後、抜歯が終わり、義歯も再度手直ししてもらった内蔵さんは、次第に食欲が戻ってきたようです。以前は歯医者嫌いでしたが、今は往診日を楽しみにしているそうです。

「こんにちは、体調はいかがですか。今日は下のムシ歯を削って詰め物をしますね」

3回目の治療にきた先生は内蔵さんに話しかけると、大きなバッグを開けて準備を始めました。

「先生、通院しなくても家で歯を削ることができるのですか?」

バッグの中を興味深げにのぞき込みながら浮江さんが尋ねました。

「このバックは携帯用の診療器具なのですが、これを使うことで、自宅でもある程度のムシ歯治療ができるようになりました。ただし、結構高価ですから、在宅介護を主にする先生以外は個人で買うのは難しかったのですが、一昨年から行政の援助を受けて歯科医師会で購入したものを共同で使用できるようになりました。つまり、訪問介護に行く時に借りればいいので、多くの先生が在宅治療に参加しやすくなったのです」

「でも、家までわざわざ来てくれるなんて本当にありがたいですね」

「介護保険の導入後は、歯科医師会と行政が協力してこの問題に取り組んでいますから、最近は多くの歯科医が訪問診療の協力歯科医として登録しているのですよ」

治療終了後、先生は『根面う蝕』の説明をしてくれました。これは高齢者や歯周病の人に特有のムシ歯だそうです。通常、歯の表面は硬いエナメル質に覆われて保護されていますが、高齢者や歯周病になると歯茎がやせ、歯の根本歯根が露出してしまうのです。

そのため、エナメル質のない歯根はムシ歯になりやすく進行も早いので、放っておけば歯が折れてしまったり、最悪の場合は化のうして腫れる心配もあるのです。そうならないよう、口腔ケアでムシ歯を予防するとともに、早期治療が大切ということです。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
歯も長年使い続けると、すり減ったり欠けたりして、とがってくることがあります。そのまま放置していると、舌やほおが傷ついたり腫れたりすることがありますので、歯科医院で処置してもらうことが大切です。(資料提供 愛媛県歯科医師会)