羽賀さん一家の

元気ではぴか

第26回 やってきた婿殿
(咀嚼編)

お母さんは休め

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
噛む回数は戦前の半分に

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。噛むことの効用にまつわるクイズで盛り上がった羽賀さん一家。浮江さんと加奈さんは、さらに歯と食事の話をしているようです。

咀嚼の効用という変わったクイズで盛り上がった家族団らんの後、ダイニングの椅子に、浮江さんと加奈さんは二人で座っていました。

「加奈ちゃん、このカステラみんなには内証だけど、一緒に食べましょう」

浮江さんは、家族の誰も知らない秘密の場所からそれを持ってきて、二人だけで食べ始めました。

「だけど、咀嚼ひとつであれだけいろいろな効果があるとはね。今日はいい勉強になったけど、加奈ちゃん、咀嚼の効用のことよく知ってたわね」

「歯医者さんで講習を受けたおかげかしら、でも、よく噛むことが口のまわりの筋肉を鍛えて、言葉の発音が良くなるなんて覚えていなかったわ。表情が豊かになって、お母さんも若々しい笑顔に戻れるかもしれないわよ」

「卑弥呼の『こ』は言葉が明りょうになる、だったかしら。それじゃあ、私も気をつけないとね。でも、脳を発達させるの『の』のほうが私にとっては大事だわ。明日から明夫に、お茶もよく噛んでから飲みなさいって言いたくなったもの」

話をしていくうちに、加奈さんは先日の講習会で食生活の変化が、現代人が噛めなくなった理由の一つであるということを思い出しました。つまり、時代とともに加工食品の数が増えて、噛まなくても飲み込むことができるため、噛む回数が少なくなったということなのです。

現代人の噛む回数は、卑弥呼の時代の6分の1、鎌倉時代の4分の1、さらに、昭和の戦前のころと比ても2分の1になってしまったそうです。噛むことの大切さは誰でも知っていますが、それなのに食べ物を噛まない、噛めない子供が増えているというのは、こういった社会の変化に起因する部分が大きいのです。

かといって、そのまま手をこまぬいているだけではいけません。噛む回数が少なくてすむ軟らかい食べ物は、歯に付着しやすく、だ液の分泌も少なくなるので、ムシ歯や歯周病にもかかりやすくなります。そして、結果的に歯を失うことになり、さらに噛みづらくなって、ますます軟らかい食べ物へと偏っていくという悪循環を繰り返すのです。羽賀さん一家は、この問題をどのようにして解決していくのでしょうか。

「そういえばお母さん、『オカアサンハヤスメ』っていう言葉を聞いたことある」

「オカアサンハヤスメ? そんなこと誰にも言ってもらったことないわよ」

浮江さんは意味も分からずそう答えました。

「お母さんのことじゃなくて、子供が好きな八つの食べ物のオムライス、カレーライス、アイスクリーム、サンドイッチ、ハンバーグ、ヤキソバ、スパゲティ、メダマヤキの頭文字をとっているの。つまり、これらの食べ物はどれも軟らかく、あまり噛まなくても食べられるので、この言葉はお母さんの手抜き料理を意味しているの」

「ふーん。子供が食べたいからといって、こういった食事ばっかり選んでいたら栄養の偏りだけでなく、ムシ歯や生活習慣病にまでなってしまうという戒めのようなものかしらね」

浮江さんも、明夫くんが好きなカレーやハンバーグをよく作っているのを後悔したようです。

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
よく噛むことは脳の血流量を増やし、脳細胞の働きを活発化します。特に、脳の中でも記憶や知能を統合する大脳皮質の発育に大きな影響を与えます。脳の発達期にある子供にとっては、よく噛んで食べる習慣が大切です。(資料提供 8020推進財団)