羽賀さん一家の

元気ではぴか

第20回 帰ってきた長女
(予防編)

磨いてハいても

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
妊娠中の口腔ケアは念入りに

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。加奈さんが怒った様子で実家に戻ってきました。いったい何があったのでしょうか?

「ただいま」

その声を聞いた途端に、浮江さんは「ふー」と深いため息が出てしまいました。「またか」という気持が彼女を襲ったのです。その声の主は、ドカドカと足音を響かせて浮江さんのいる台所に入ってきたかと思うと、例の金切り声で叫びました。

「いやんなっちゃうわよ、お母さん。洋さんたらひどいのよ!」

言わずと知れた羽賀さん夫婦の長女加奈さんです。彼女は板井洋(いたいひろし)さんと1年前に結婚して現在妊娠中。5カ月後には出産を控えているのです。

「そんなに大声を出すとおなかの赤ちゃんがびっくりしちゃうわよ。で、今回のけんかの原因は何なの?」

やれやれという顔をしながら、浮江さんは尋ねました。

「昨日ね、私が食後にケーキを食べてたの。そしたらね、洋さんたら『そんなにしょっちゅう甘いお菓子ばかり食べてたら体重が元に戻らなくなるよ』なんて言うのよ。いったい誰のせいでこんなおなかになったと思っているのかしら」

少し興奮しながらしゃべっている加奈さんに、浮江さんはあきれ顔で答えました。

「だって必要以上に太ってしまうと、体がもたなくなっちゃうわよ。それにこの前メンテナンスに歯医者さんへ行った時、衛生士さんにあなたのことを話したら、『妊娠中はムシ歯や歯肉炎になりやすいので注意しないといけないですよ。よかったら一度健診に来てみてください』って言っていたわよ」

「大丈夫、毎食後と夜寝る前のハミガキはかかしたことないもの」

そう返事をすると、目の前にあったサイダーを飲みながら加奈さんは叫びました。

「うー、しみる。お母さん、このサイダー冷やしすぎじゃない?」

「えっ、何も、しみたりしないじゃない」

そのサイダーを一口飲んでみて、浮江さんはそう返事しました。そして、加奈さんに以前自分の頭痛が歯に関係していたことを話し、歯科医院に健診に行くことを強く勧めたのでした。

「ただいま」

1週間後にやってきた加奈さんの声は、前回とは違ってか細い声だったので、台所にやって来るまで浮江さんは加奈さんに気がつきませんでした。

「どうしたの、どこか体の調子でも悪いの」

心配そうに浮江さんがそう尋ねると、重たそうに口を開きました。

「昨日歯医者さんに健診に行ってみたら、ムシ歯が3本もできてたの。それに歯肉炎にもなっているって言われたの。それで『ハミガキはちゃんとやっているのに、どうしてこんなになるのですか?』って聞いてみたら、『歯は磨いているけど、大事な所を磨けなかったようですね』って先生に言われたの」

「あなたもお父さんと一緒ね。これじゃあうちの家族はみんな歯医者さんにお世話になりそうだけど、これからどうするの?」

「なんでも今は妊娠中期の安定した時期だから、ムシ歯の治療はできるらしいわ。それから、歯科医院で定期的に行われている妊婦さんのための『丈夫な赤ちゃんを育てる母親教室』に参加(さんか)することにしたの」

「あなたひとりの体じゃないのだから、しっかり聞いてきてね」

愛媛県歯科医師会監修
毎週木曜掲載


<はぴか情報>
妊娠・出産・育児時の女性の生活は、歯や歯周組織を含めて口の病気の発生や進行を気づかぬまま許してしまいがちです。また、妊娠時は消化管の押し上げ、圧迫により間食が多くなる傾向があります。歯みがきをこまめにして、基本的な生活習慣を乱さないように配慮することが、ムシ歯予防のために必要です。(資料提供 愛媛県歯科医師会)