羽賀さん一家の

元気ではぴか

第17回 明夫くんとテレビゲーム
(不正咬合編)

羽の生えた一万円札

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
矯正で集中力アップ

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。良子(よしこ)さんから口呼吸が歯並びを悪くする原因の一つと聞いて、明夫くんの歯並びが気になる浮江さんは心配でたまらないようです。

家に帰ってから夕食の準備に時間があったので、浮江さんは良子さんにもらった資料を取り出して読んでいました。一枚目の資料にはこんなことが書かれていました。

◇口呼吸はなぜいけないの? 習癖とは、その人がいつも行う習慣的動作や行動を繰り返すことにより固定化されたものです。口腔の習癖で問題になるのは、それを続けることが口腔内外に悪影響を及ぼすもので『悪(あく)習癖』とも呼ばれ『口呼吸』もそのひとつにあげられています

「ふーん、やっぱり口は食べるために使うべきよね」

浮江さんはそうひとりごとを言いながら、テーブルにあった大福にパクつきました。

「へえ、口呼吸って口臭が強くなったりムシ歯や歯周病が進行しやすくなったり、いろいろと悪影響があるのねえ。でも歯の矯正は費用がかかるらしいから、うちじゃあ無理よね」

一枚目を読み終えた浮江さんには、羽の生えた一万円札が矯正というねぐらに帰ろうとするのを、必死で引き止めようとしている自分自身の姿が浮かんできました。しかし「口呼吸」なんて注意して見なかったら特に具合が悪そうには見えないのですから、それがそのままにしていたらいろいろ悪影響があるなんていわれたら驚くのも無理もありません。

二枚目からの資料には、不正咬合の種類や原因についても書かれていましたが、内容がちょっと難しくて浮江さんは眺めるように見るだけでした。しかし最後の一枚には、浮江さんの目がくぎ付けになったようです。

◇歯ならびが良くなると、しっかり噛みしめることができ、次のような効果をもたらします。脳に血液がよくながれ、頭の回転が良くなります

「矯正したら集中力がついて、頭が良くなるの! 明夫の成績も上がるのかしら?」

何事にも注意深い浮江さんですが、明夫くんのこともあって少し矯正に興味が出てきたようです。その瞬間羽の生えた一万円札は浮江さんの手を離れ、ねぐらへと飛び立っていきました。

「ただいま、お腹減ったよ」

明夫くんが、塾から帰ったようです。

「ねえねえ、明夫。今度、歯の矯正に行ってみない?」

浮江さんが目を輝かせながらそう言うと、明夫くんは少しいぶかしそうに浮江さんの顔を見ました。

「矯正? それ何をするの?」

「歯並びを良くしてもらうのよ。そうするとね、勉強もよくできるようになるんだって」

またその話かという、うんざりした顔をして明夫くんは返事をしました。

「行かないよ。僕の頭はお母さんゆずりかしらって、矢田(やだ)おばあちゃんが言ってたもん」

矢田は浮江さんの実家なのですが、明夫くんにそう言われて浮江さんも黙ってはいられません。

「なにさ、あんたみたいのを壊れた潜水艦って言うのよ」

さっきまでの優しい顔とはうって変わって、浮江さんの顔が険しくなりました。

「なんだよ、それ。どういう意味さ?」

「沈んでばかりで、浮き上がってこないっていう意味よ。本当にもう」

浮江さんはもう忘れているようですね。「リラックス リラックス」


<はぴか情報>
よいかみ合わせかどうか、チェックしましょう。

  • 顔を正面から見た時、あごが左右どちらかにずれることなくまっすぐだ
  • イーッと口を横に開いた時、上下の歯の正中線(上下2本の前歯の間を結ぶライン)がそろっている
  • 犬歯より後ろの歯が、上あごの歯1本に対して下あごの歯2本の割合でかみ合っている。

(情報提供・愛媛県歯科医師会)