羽賀さん一家の

元気ではぴか

第42回 その先に見えるもの
(先進医療編)

マイナスからプラスの医療へ

文:飯尾秀人、絵:KOUJI
「歯再生の夢」研究進む

<これまでのあらすじ>
羽賀(はが)さん一家は、四国のある街で仲良く暮らす大家族。お父さんの大二郎(だいじろう)さん、お母さんの浮江(うきえ)さん、結婚して妊娠中の長女加奈(かな)さん、高校生の二女唯(ゆい)さん、小学生の長男明夫(あきお)くん、大二郎さんの両親の内蔵(ないぞう)さんと保志子(ほしこ)さんは、みんな歯に問題を抱えていました。ある土曜日、内蔵さんと保志子さんは花の手入れをしていた歯科医の日真名先生と出会いました。先生は歯の治療の将来について、興味深い話を始めます。

「先生、何をなさっているんですか?」

土曜の昼下がりに車椅子の内蔵さんと散歩に出かけた保志子さんは、診療所の前で花のプランターを並べていた日真名先生と、偶然出会いました。

「去年の秋に種をまいた花が咲き出したので、ここに並べているんですよ」

日真名先生はゴマよりも小さな種から成長して、いろいろな色や形の花を咲かせる自然の神秘に魅せられ、数年前からガーデニングを趣味にしていたのです。

「先生が花を育てるなんて意外ですね。種を植えて、歯の実でもなったら便利なんでしょうけどね」

歯医者さんは歯を抜いたり削ったりするマイナスの外科的処置が多いので、育てて大きくするというプラスのイメージが日真名先生には似合わなかったのです。保志子さんが笑いながらそう話すと、日真名先生はニコニコしながら答えました。

「実は、歯でもガーデニングと同じような研究がなされているんですよ。ちょっと待っててください」

そう言うと、日真名先生は診療所の反対側に行き、大きなプランターを持って再びやってきました。そして、そこに植わっていた植物からは、小さな野菜の実がたくさん成っていたのです。

「家庭菜園もなさっているのですか。大きく育つといいですね」

「実はこれが歯の実、つまり歯の再生医療の正体なんです」

聞きなれない言葉に戸惑う二人に、日真名先生は「再生医療」の説明をしました。

私達の体の中には細胞の元となる『幹細胞』と呼ばれるものがあり、主に歯髄や骨髄の中に存在しています。この細胞を取り出し、血液中の増殖因子と混ぜて数万倍に増殖させ、歯や骨の細胞へと分化した後に失った部分に移植すれば、自分の歯や骨を再生させることが可能となるのです。

そして、「再生医療」の一連の流れは、農作物の育成に似ています。というのも、農作物を育てる時には種を大地にまき、光や水、栄養分を与えることによって豊かな実りを迎えることができますが、再生医療では「幹細胞」が種、「血液中の増殖因子」が光や水、栄養分、「豊かな実り」が歯と骨の再生に当たるのです。

「私達の体は受精卵を原点として、いろいろな組織への分化と細胞分裂を繰り返し、成長してきました。ですから、体の中にはその元となる幹細胞が隠れていて、それを利用しようというのです」

この技術が実現されれば、私たちは近い将来『細胞バンク』に自分の幹細胞を保存しておいて、病気になった時に歯や骨を移植して、一生涯自分の歯で健康に暮らすことができる、そんな時代も夢物語ではなくなるかもしれません。

「すばらしい研究ですね。もし実現すれば、どんなにすばらしいことでしょう」

「でも植物も同じですが、良質の種を探さなければならないし、成長に適した土地や、さまざまな成長条件を満たさなければなりません。それに、うまく分化できなければ、その一部が奇形や異物となる恐れもあるのですから。それから……」

日真名先生は急に顔を曇らせました。


<はぴか情報>
未来の新技術として期待されるのが、遺伝子による再生技術で自分の細胞から歯髄、象牙質、エナメル質、セメント質などをすべて再生するクローン歯です。国内外の大学などで大規模な研究が行われています。実用段階になれば、入れ歯やインプラントは不要になるでしょう。(資料提供、日本歯科医師会)